狭心症とは
心臓は1日に約10万回、生涯休みなく拍動するポンプで、このポンプを動かすエネルギー源が「冠動脈」です。心臓があたかも冠をかぶったように、この動脈が心臓の表面を流れているので、こう呼ばれていますが、冠動脈が心筋の細胞に栄養をあたえているから心臓は動くのです。
年をとるにつれ、この冠動脈の血管壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が進むと、血管の内側が狭くなります。血流が不十分になるほど狭くなると、心臓を動かす血液が不足する「心筋虚血」になってしまいます。虚血状態になると、心臓から発するSOS信号として、胸痛か胸の圧迫感を感じるようになります。これが狭心症です。ただし、この症状は長くても15分以内に消えてしまいます。
狭心症の原因
~動脈硬化~
原因の多くは動脈硬化です。動脈硬化とは簡単に言うと、血管が狭くなり血流不足に陥ることを指します。冠動脈の壁にコレステロールなどが沈着すると、こぶのように盛り上がった「プラーク=粥腫(じゅくしゅ)」ができます。プラークが大きくなると、プラークは血管の内側に張り出してくるため、血流が障害され、プラーク以遠の組織では血流不足が生じます。心臓でこの現象がおきると狭心症として症状に現れます。また薄い膜で覆われている粥腫は破れやすく、傷付くとその回りに血栓ができ、血管を完全にふさいで血流を遮断してしまいます。
動脈硬化が出来上がるまで
血管の内膜にコレステロールを中心としたプラークが溜まっていき、こぶとなって血管の内側に盛り上がることで、血流障害を起こします。動脈硬化は、加齢により誰でも進んでいきますが、下の図のように、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を患っていたり、運動不足や喫煙習慣などによって、動脈硬化の進展速度を速めてしまいます。
血流を妨げることなく、生命活動に必要な酸素や栄養を送り届けられる。
- 加齢
- 運動不足
- 喫煙
- 肥満
- 食生活の乱れ
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 高血圧
- 血管の炎症
血管の内膜にコレステロールを中心としたプラークが溜まっていき、血管が詰まったり、血管の構造が脆くなった状態。血流障害による様々な悪影響が生じます。
狭心症の自覚症状
初期症状はほとんどなく、冠動脈の内腔が75%まで覆われたときに症状が現れると言われています。そして症状は長くても、15分以内で消えてしまいます。
- 胸の痛み(胸全体が締めつけられたり、押さえつけられたような痛み)
- 動悸、息切れ
- 冷や汗
- 左肩、左腕、左手、顎、歯などに痛みが放散する場合もある(放散痛と言う)
※無症状もある(糖尿病の方は神経障害で症状を感じにくく、さほど症状が出ない場合がある)
狭心症は、さらに危険な心筋梗塞や心不全を引き起こす可能性を秘めた病気です。症状が治まるからと放っておかず、このような症状がある場合は診察を受けることをお勧めします。
15~20分以上続く場合には、さらに重症の心筋梗塞を疑います。
検査について
発作が起きた時の状況を問診で把握します。
発作がおきる時間、どのくらい発作が続くのか、どのくらいの頻度で起きるのか、徐々に発作が増えているのか、ニトロが効果あるのか、食事と症状の関連があるのか、呼吸と症状に関連があるのか・・・・などなど、発作の性質を確認することで、狭心症かどうかをある程度まで絞ることが可能です。
その後、心電図検査(安静時心電図検査、運動負荷試験、24時間心電図検査)、採血による心筋壊死マーカー、心臓エコー検査、心臓CT検査、心臓カテーテル検査などを行い、診断をし治療をしていきます。
採血
血流不足により心臓の筋肉(心筋)が壊死し始めると、心筋の中に存在するたんぱく質が血液中に漏れ出します。主な項目としては、ミオグロビン、CK-MB、トロポニンIなどがあります。これらの数値が異常高値を示す場合には、狭心症よりも重篤な心筋梗塞を強く疑います
心電図検査
狭心症に特徴的な心電図変化(ST変化)を捉えます。ただし、安静時のみの検査で完全に狭心症を捉えることは難しいため、運動負荷試験や、24時間心電図(ホルター心電図)などを組み合わせて実施します。
安静時の心電図検査で異常所見があるようなら、血管の狭窄が高度である可能性が高く、検査を急ぐ判断をします。
心臓エコー検査
心臓エコー検査では、心臓の動きや、血流が正常に流れているかをみることができます。狭心症により慢性的に血流が不足している心臓では、心臓の動きが悪くなっていることがあったり、弁膜症を認めたりします。
運動負荷試験
運動で心臓を動かすことで、冠動脈の狭窄を確認します。運動をすることで心臓が必要とする酸素が足りなくなると、心電図変化(ST変化)が出ます。同時に胸の不快感が出るようなら、狭心症の可能性が高いと診断することができます。ただ狭心症発作を起こしうる検査方法ですので、やや危険を伴います。そのため循環器専門医のもと実施すべき検査の一つです。
ホルター心電図検査
主に冠攣縮性狭心症(異型狭心症)を疑う時に行う検査です。明け方に多い発作を捉えることが可能で、発作の時に心電図変化があれば診断をつけることができます。
同時に不整脈のチェックができますので、症状が不整脈によるものかどうかの確認をすることが可能です。
心臓CT検査
冠動脈の走行、血管の狭窄を評価することができます。
心臓CTではカテーテルを使用せず、造影剤を注射することで冠動脈の評価が可能です。心臓カテーテル検査と比べより低侵襲で、体の負担が少ない検査です。
心臓カテーテル検査
脚の付け根の血管等からカテーテルを挿入し、心臓の血管の状態を直接調べる検査です。血管に造影剤を流し、X線撮影を行うと写真のように血流があるところは造影剤を反映して黒く映ります。急性心筋梗塞の場合には、検査で責任病変を確認した後そのまま血管を広げる治療へ進むので、心臓カテーテル検査は、検査と治療を兼ね備えたものとなります。
治療法について
狭心症治療の基本は、発作時の症状を解消し、狭心症の悪化と心筋梗塞を防ぐことです。これにはお薬の内服と生活習慣の是正が重要となります。
お薬でも狭心症症状が改善されなかったり、狭心症を起こしている血管の部位や状態によっては、狭くなっている箇所を広げる心臓カテーテル治療や、別の血管をつなぎ合わせて血流を回復させる冠動脈バイパス術を行います。
お薬について
冠動脈の血流を改善させる薬
硝酸薬
血管を広げる作用があるため、冠動脈の血流が増加します。発作時の頓服薬や、発作予防として常用するなど状況に応じて使い分けられます。
心臓を休ませることで症状を
和らげる薬
ベータ遮断薬
交感神経の働きを抑えることで、心臓の過度な働きを防止します。心臓の働き度合いを抑えることで酸素需要が低下することで、血流不足に伴う狭心症症状が起きないようにします。
心臓への負担を軽くさせる薬
ベータ遮断薬
心臓に負担を与える自律神経やホルモンの作用を抑制します。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬/
アンジオテンシン受容体拮抗薬/
カルシウム拮抗薬
血管の収縮や血液貯留にともなう血圧上昇を防ぐことで、心臓の負担を軽減させる薬です。
生活習慣の見直し
- 加齢
- 運動不足
- 喫煙
- 肥満
- 食生活の乱れ
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 高血圧
- 血管の炎症
血管の内膜にコレステロールを中心としたプラークが溜まっていき、血管が詰まったり、血管の構造が脆くなった状態。血流障害による様々な悪影響が生じます。
狭心症の原因は、血管の老朽化:動脈硬化によるものです。上図のような生活習慣は、生活習慣病を引き起こし、生活習慣病は動脈硬化を引き起こします。お薬をきちんと服用していたとしても、動脈硬化の大元である生活習慣の改善を行わないと、お薬の効果が十分に発揮されないことは容易に想像できます。このように狭心症の治療は医師の力だけでは不十分と言えます。
生活習慣の見直しと改善が大切です
心臓カテーテル治療
心臓カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞により、心臓に血液を供給している冠動脈の中で、細くなっている(また詰まっている)場所をカテーテルによって治療し、血流を取り戻す手術です。
1カテーテルの挿入
手首もしくは足の付け根から、カテーテルという細い管を血管に挿入し、心臓の血管(冠動脈)まで進めます。
2血管が細くなっている場所を確認
血管に造影剤を流し、X線撮影をして、血管が細くなっている個所を確認します。
3狭くなっている箇所を広げる
細くなっている場所が確認できたら、カテーテルの先端につけた風船を膨らませて血管を押し拡げます。その後、拡げた血管が縮んでこないように、ステントという金属の網を血管に留置します。
4カテーテルを抜く
カテーテルを抜いて、挿入部の止血を行って治療は終了です。
治療時間は、1~2時間です。身体に大きな傷はできず、カテーテルの入る2mm程度の傷ができる程度ですみます。
治療後は、血液をサラサラにするお薬を飲み続けていただく必要があり、出血等に注意する必要はありますが、基本的に健康時と同じ生活を送ることが可能となります。
また、再発予防のため、禁煙、食生活や運動習慣など日常生活の見直しを図ることが重要です。狭心症、心筋梗塞は原因であり生活習慣(糖尿病、脂質異常症、高血圧など)の是正をすることが再発予防には必須です。ですので、心臓カテーテル治療をしたから全ておしまい、ということはなく、再発予防のために「原因疾患の治療の始まり」とお考え下さい。
冠動脈バイパス術
狭心症や心筋梗塞により、心臓に血液を供給している冠動脈の中で、細くなってしまった(また詰まってしまった)場所を飛び越えて、血液が流れるバイパス(迂回路)を作る手術です。2012年に上皇陛下がお受けになられた手術として有名です。
1バイパスに用いる血管を
採取します
全身麻酔の後、バイパスに用いる血管を胸や胃、足などから採取します。
2バイパス手術を行います
胸の中央の骨を切開し、心臓を露出させます。
手術は、1.心臓を止めて人工心肺を用いる方法と、2.心臓を動かしたまま行う方法の2パターンがあり、個々の病態や手術リスクに応じて使い分けられます。心臓を動かしたまま行う手術は難易度が高いのですが、手術する先生方の技術向上で最近はもっぱら、心臓を動かしたまま行うのが通常です。
3胸を閉じて手術が終了します
手術時間はつなぐ血管の数にもよりますが、約3~5時間程度です。
4出来るだけ早い時期から
リハビリが始まります
手術当日には麻酔から覚めて、翌日からリハビリが始まります。
入院期間は2週間程度が目安となります。
5退院後は転倒などに注意します
バイパス術後は胸の骨が骨折している状態で、胸の骨が癒合するまでには1~3カ月を要します。上半身を大きく捻じる動作(ゴルフなど)や、上半身に大きな力の加わる動作、転倒などに注意をして過ごす必要があります。
カテーテル治療と同様に、血管が細くなった原因を取り除いたわけではありませんので、再発予防のため、禁煙、食生活や運動習慣など日常生活の見直しを図ることが重要です。狭心症、心筋梗塞は原因であり生活習慣(糖尿病、脂質異常症、高血圧など)の是正をすることが再発予防には必須です。ですので、心臓バイパス手術をしたから全ておしまい、ということはなく、再発予防のために「原因疾患の治療の始まり」とお考え下さい。
血管が痙攣する
冠攣縮性狭心症
(異型狭心症)とは
狭心症の種類として冠攣縮性狭心症(異型狭心症)というものがあります。狭心症の原因は一般的には冠動脈の動脈硬化によるものですが、冠攣縮性狭心症は突然冠動脈が痙攣を起こして細くなり(れん縮)、一時的に血流障害が生じることで狭心症の症状をきたすものを言います。通常の血管が動脈硬化によって物理的に細くなる狭心症とは、少しタイプが異なるため、「異型」の狭心症という名前がついています。
日本人は欧米人に比較して冠攣縮性狭心症が多いと言われています。自覚症状は、胸の痛み、胸がしめつけられる・焼けつく感覚等として訴えられることが多く、出現場所も胸部のみとは限らず、肩(特に左肩)、背中、首、頬、歯、後頭部、みぞおち等に出現することもあります。これらは、通常の狭心症の症状と同じですが、狭心症よりも症状の程度が強く現れるという特徴があります。
冠攣縮性狭心症の
診断と治療
冠攣縮性狭心症の確定診断は、ホルター心電図(24時間心電図)で発作中の心電図変化を確認することや、心臓カテーテル検査で薬物(アセチルコリンやエルゴノビン)を投与して冠動脈の発作誘発試験を行います。ただ発作時の症状、時間、持続時間などから、冠攣縮性狭心症を疑った時には、まずは血管拡張薬を内服して症状がどのように変化するかをみることが一般的です(これを「治療的診断」と言います)。
冠攣縮性狭心症の治療は、発作時にニトログリセリンを服用することや、発作予防に血管の痙攣を抑制するカルシウム拮抗薬を内服することです。また冠攣縮性狭心症に特徴的な危険因子は、喫煙、アルコール多飲、ストレスですので、禁煙、禁酒、過度なストレスを回避することが必要です。