バセドウ病とはどんな病気ですか?
バセドウ病は、身体の防御機能である「免疫」が自分自身を標的にしてしまうという自己免疫の代表的な病気で、男性より女性の方が発症しやすいと言われています。甲状腺は喉ぼとけの所にある小さな臓器で、人が元気に生活をしていく上で必要なホルモンを作っており、甲状腺ホルモンは「元気ホルモン」とも呼ばれています。バセドウ病は、甲状腺ホルモンの分泌が異常に多くなってしまうことによるもので、「元気ホルモン」が過剰なため、常に動き回っているような状態に身体が陥ります。結果として疲れやすくなる、などの症状が出ます。
バセドウ病の症状
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)では、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されるため、全身の臓器で新陳代謝が活発化し、以下のようなさまざまな症状が現れます。
全身の症状・体温
疲労感、倦怠感、暑がり・多汗、体重減少または体重増加、微熱が続く、筋力低下、骨粗しょう症、手足の震え
顔・首・口腔の症状
眼球突出、きつい目つき、複視、甲状腺の腫れ
神経・精神の症状
イライラ、集中力低下、落ち着かない、不眠
循環器の症状
頻脈(脈が速い)、動悸、息切れ、心房細動
消化器の症状
食欲後進または食欲不振、軟便、排便回数が多い
皮膚の症状
多汗、脱毛、かゆみ、皮膚が黒っぽくなる
血液の症状
コレステロール値の低下、血糖・血圧上昇、肝障害
婦人科の症状
月経不順、無月経、不妊症
バセドウ病の特有の顔つき
眼球突出
バセドウ病の症状としてよく知られているのが、眼球突出です。ただ、実際に眼球突出の症状が現れるのは、バセドウ病全体のうち1割程度となっています。
免疫異常によって、瞼・眼球付近の組織で炎症が生じたり、脂肪が増えて眼球が前方へと押し出されることから起こる症状と考えられます。
上眼瞼後退
甲状腺ホルモンの異常、免疫異常に伴う炎症によって、上眼瞼後退という症状が現れることがあります。
甲状腺ホルモンの異常
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になることで、上瞼を動かす筋肉の収縮が促進することから、瞼および目が吊り上がったような変化が見られることがあります。
免疫異常に伴う炎症
免疫の異常によって上瞼を動かす筋肉に炎症が起こり、上眼瞼症状が現れます。症状がひどい場合には、眼球突出のように見えることもあります。
眼の位置ずれ(斜視)、眼球運動障害など
眼球を対象となる物の方向へと動かす筋肉を「外眼筋」と言います。免疫異常に伴い外眼筋で炎症が起こると、目の位置がズレる斜視が生じることがあります。
その他、免疫異常による周辺組織の炎症、眼球突出、眼瞼後退などを原因として、瞼の腫れ・逆さまつ毛・ドライアイ・眼精疲労・複視(物が二重に見える)・視力低下など、さまざまな症状が起こります。
バセドウ病の診断はどのようにして行いますか?
甲状腺ホルモンが高くなる病気には、その他に無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、甲状腺過機能結節(プランマー病)など様々な病気がありますが、下記の通り、いくつかの検査と症状を組み合わせて診断します。
1甲状腺ホルモン(FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定
甲状腺機能の把握には、必須の血液検査です。
バセドウ病ではFT4が高くなり、TSHが測定できないくらいに低くなります。
2TSH受容体抗体 (TRAb)の測定
この自己抗体が陽性となることでバセドウ病と診断できます。
3超音波検査
甲状腺の大きさ、甲状腺内の血流など病気の状態を把握します。
また、甲状腺の内部に結節(しこり)がないかどうかを検査します。
バセドウ病はどのように治療しますか?
治療法として 1. 薬物療法、2. アイソトープ治療、3. 手術療法 があります。
基本は、まず薬物治療を行います。現在、抗甲状腺薬には、チアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の2種類があります。
MMIはPTUの10倍以上の効果があるため、MMIを第1選択薬として処方いたしますが、副作用の確認のためにお薬を内服して2ヶ月間は2週間間隔で血液検査が必要となります。問題がないことが確認できましたら、お薬を1年半から2年程度内服し、その後中止しバセドウ病が再発しないことが確認されたら治癒となります。つまり治療には約3年程度の期間がかかります。
お薬でコントロールできない場合や、副作用のために内服できない場合などで、2. アイソトープ治療や 3. 手術療法を選択することになります。それぞれにメリット、デメリットがありますので、患者さんにとってベストな治療方法を選択し、連携病院を紹介しています。
日常生活で注意することは何かありますか?
当たり前かもしれませんが、睡眠時間を十分に取り、規則的な生活を送ることが一番です。
バセドウ病は「元気ホルモン」が過剰にでている病気ですので、ストレスは状態を更に悪化させます。ですので、甲状腺ホルモンが高い間は、心身に負担のかからないような配慮が必要です。仕事においても強度(夜勤は避けるなど)、勤務時間を短縮するなどが望まれます。また甲状腺ホルモンが高い間は、激しい運動は控えてください。脈拍が高い状態が続いていますので、その時に激しい運動を行うと、更に脈拍が高くなり、心房細動や心不全を引き起こしてしまう可能性があります。甲状腺ホルモンが正常域に戻ったら、運動の制限は一切なくなりますので、その間の辛抱となります。
治療による症状の改善
バセドウ病で現れる眼の症状は、その要因によって治療法が異なります。
甲状腺機能の亢進眼球運動障害などについては、内服のみによる改善は困難です。
中でも、眼球突出については治療が難しく、早期に治療を開始することが大切になります。免疫異常や炎症によって起こる症状については、以下のような治療が行われます。
ステロイドパルス療法+放射線外照射療
外眼筋の炎症に対しては、ステロイド薬を投与する「ステロイドパルス療法」が有効です。多くの場合、炎症の再発を予防するために、ステロイド「放射線外照射療法」を併用します。 急性期の炎症が強い時期に特に有効となる治療です。
手術
眼球突出によって瞼を閉じづらい場合などには、眼球まわりの骨を削りスペースを広げる「眼窩減圧術」が行われることがあります。慢性期においては、斜視手術や眼瞼手術が行われることが多くなります。 いずれにせよ検査・治療においては、甲状腺を専門とする医師と眼科医との連携が重要になります。
妊娠とバセドウ病
バセドウ病は、橋本病と同様に、女性に多い疾患です。女性の発症率は男性の3~5倍となっており、特に20~30代で好発します。
大切なのは妊娠前からの治療
甲状腺ホルモンが多い状態で妊娠すると、そうでない場合と比べて、流産や早産のリスクが高くなります。妊娠前から、適切な治療によって甲状腺ホルモンの値をコントロールすることが大切になります。 なお妊娠後期にバセドウ病の症状が落ち着き、薬を使用せずとも甲状腺機能が正常であれば、通常と同じように産科・産婦人科での出産が可能です。一方で妊娠後期に甲状腺ホルモンの値が高い場合には、胎児の甲状腺を茂樹することがあるため、新生児科のある病院での出産が検討されます。
妊娠中の治療について
バセドウ病の治療では、メルカゾール、チウラジール、プロパジールといった抗甲状腺薬、無機ヨウ素の内服が基本となります。 妊娠初期にはメルカゾールの内服による胎児への影響がわずかに心配されるため、妊娠を希望している段階で、どのような治療を行うのか医師と相談しておくことが大切です。 また、症状が強い場合には、妊娠前に手術やアイソトープ治療を行ってから妊娠を検討する場合もあります。 なお甲状腺ホルモン薬であるチラーヂンSについては、妊娠中や授乳中も問題なく服用できます。
出産後の治療について
チウラジールとプロパジールについては、母乳へと移行することがありません。一方でメルカゾールについては、内服量によっては母乳への移行が懸念されるため、授乳間隔を長めにしたり、人工栄養と併用したりといった対策が必要になることがあります。また無機ヨウ素についても、授乳中は基本的に内服を行いません。 出産後は、バセドウ病の症状が強く現れることがあります。定期的に受診し、検査を受けましょう。
バセドウ病のよくあるご質問
バセドウ病とは、どのような病気ですか?
代謝に関わる甲状腺の機能が過剰に働き、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」の代表的な疾患です。
バセドウ病には、どのような症状がありますか?
甲状腺ホルモンの分泌が増えることで、疲労感や倦怠感、暑がり、多汗、手足の震え、眼球突出、きつい目つき、複視、甲状腺の腫れ、イライラ、頻脈、動悸・息切れ、月経不順、無月経など、さまざまな症状が現れます。
バセドウ病の治療法には、どのようなものがありますか?
薬物療法、アイソトープ治療、手術などがあります。通常は、薬物療法が第一選択となります。アイソトープ治療については、バセドウ病の根本的な治療が期待できますが、原則18歳以上であること、治療効果が過剰になることがあります。
これらの治療が適応とならない場合には、手術で甲状腺を摘出します。
バセドウ病は、どれくらいで治るものなのでしょうか?
適切な薬物療法を行えば、ほとんどのケースで3カ月以内に甲状腺ホルモンの量が正常になります。
ただし、治療そのものは引き続き継続していきます。平均、2~3年を要します。