糖尿病は、簡単に述べると、HbA1cが6.5%を超えると診断に至ります。
基準となる正常値は4%~5.5%です。
しかし血糖値やHbA1cといった検査数値は、貧血など合併する疾患で値が変わることが知られており、一般内科の先生方でも診断を誤らないように、複雑な診断チャートが容易されています。
HbA1c、空腹時血糖値、随時血糖値、75gOGTT値のいずれかが基準値を超えている場合を「糖尿病型」といい、空腹時血糖値、随時血糖値、75gOGTT値のいずれかとHbA1c値の両方が糖尿病型である場合、もしくは口渇(口の渇き)、多飲、多尿、体重減少などの典型的な糖尿病の症状が出たり、糖尿病網膜症がある場合は、1回の検査で「糖尿病」と診断されます。
HbA1cが糖尿病型でなくても、血糖値が糖尿病型の場合は、別の日に再検査をし、そこでも血糖値が糖尿病型であれば糖尿病と診断されます。HbA1cの結果のみの糖尿病型の場合は、血糖検査を含め再検査が必要です。
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日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版),糖尿病55:494, 2012より一部改変
日本糖尿病学会 編・著: 糖尿病治療ガイド2018-2019, p.23, 文光堂 2018
糖尿病は、1~2ヵ月の血糖値の変動を反映したHbA1c値や空腹時や食後の血糖値などの検査値を組み合わせて診断します。
一般的な健康診断では、「空腹時血糖値」のみを測定することが一般的です。初期の糖尿病は、食後に血糖が上昇する(=食後高血糖と言います)ことが特徴なので、「空腹時血糖値」のみを見ていては、糖尿病を見落とす可能性があります。1~2か月の血糖値の変動を反映した「HbA1c」を合わせて測定することで、より正確な判断が可能になります。
また「食後高血糖」がある人は糖尿病になる危険性が高く、また動脈硬化による合併症を起こしやすいことが分かってきています。
これは当院で初診の糖尿病患者さんにお渡しする説明書類です。一般的には「血糖値」という言葉には触れることがあっても、「HbA1c」は理解しづらい面があるかと思います。「血糖値」は食事によってダイナミックに変動しますが、「HbA1c」はその平均値を出しているものになります。ですので1回や2回の食事には影響をうけませんので、治療効果を判定するのにとてもいい指標になります。
糖尿病には自覚症状がありませんが、血糖値が高い状態を長い間放置していると、全身の血管が障害されて様々な合併症を引き起こしてしまいます。よって糖尿病の治療を受けられている方は、現時点で合併症がどれだけ進行してしまっているか、また治療によってしっかりと合併症の進行を抑えることができているか、ということを定期的に検査して確認することが非常に大切です。 以下に、糖尿病の治療を継続していくうえで定期的に必要となる検査について、それぞれご説明します。
糖尿病の合併症のうち、直接生命に関わる重大な合併症のひとつに「心筋梗塞」があります。心筋梗塞を起こした患者さんのうち、約60%の方が糖尿病を合併しているということが分かっています。そのため糖尿病の患者さんは血糖管理をするだけではなく、命に直結する心臓病をいかに予防するかが一番重要です。当院では糖尿病専門医でありかつ循環器専門医の院長が一括して管理を行うことが可能なことが強みです。
心電図は、心臓の動きを電気信号に変えて測定するものです。心臓に何らかの異常が起こると心臓のリズムが乱れるため、心電図にも異常が出てきます。不整脈や狭心症、高血圧でも心電図は異常をとらえてくれるので、たくさんの情報をもたらしてくれます。心臓疾患のスクリーニングや、心臓疾患の経過観察に、非常に有意義な検査です。
また心エコー検査は心電図と異なり、超音波を用いて心臓の状態を画像としてみることができる検査です。この検査では心臓の大きさや形、壁の厚さ、動き方などが分かります。また心臓がどれだけ弱っているのかや、心筋梗塞を起こしてしまって動きが悪くなっている場所などを確認することができます。この検査は胸にゼリーを塗って超音波で検査をしますので、痛みがなくまた10分程度で多くの情報を得ることができます。
運動負荷試験は、運動しながら心電図をとり、血圧、脈拍、不整脈を確認します。心臓の血管が細くなり血流不足となっているかどうかを確認することができます。糖尿病の患者さんの3~4割が心臓病を持っていますし、心筋梗塞の患者さんの5~6割は糖尿病を持っており、糖尿病と心臓病は密接な関係があります。ただ糖尿病患者さんの大きな問題点は、血糖の影響で症状が出にくいということです。そのため症状がなくとも1年に1回は運動負荷試験を実施して、心臓病が隠れていないか精査を行い、心臓発作の予防を積極的に当院では行っています。
これらは糖尿病によって血管がどれだけ傷んでいるか、「動脈硬化」の状態を把握するための検査です。
ABI検査では、両手(上腕)両足(足首)の血圧を同時に図ります。正常では足首の血圧の方が上腕の血圧より高いのですが、動脈硬化が進むと足首の血圧が上腕の血圧よりも低くなります。つまり、上腕や両足という比較的太い血管がどれだけ詰まっているか、を血圧によって推定する検査です。
頸動脈エコーは、心エコーと同じく超音波を用いて首筋を走る頸動脈の中を画像としてみることができます。頸動脈は動脈の中でも太い血管であるにもかかわらず、体表から浅いところを走っているので観察がしやすいという特徴があります。また動脈硬化が発生しやすい部位でもあります。頸動脈を観察して大きな異常が確認された場合、全身の動脈でも同じような異常があるのではないかと推定することができます。 動脈硬化も症状がなく徐々に進行していくため、少なくとも1~2年に一度、定期的にその進行の程度を確認することが大切です。特に糖尿病だけでなく、高血圧、脂質異常症も一緒に合併している場合は更に動脈硬化は進行しますので、1年に一度することをお勧めします。
糖尿病の患者さんは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に代表される慢性肝疾患が潜在的に合併しているケースが多いことが分かっています。
またNASHは血液検査では肝機能異常を示さず、知らないうちに肝硬変や肝がんに進行していることもあります。このことからヨーロッパを中心とした学会でも、糖尿病の患者さんには腹部エコー検査によって、脂肪肝や慢性肝障害の有無をチェックすることが勧められています。肝臓がんだけでなく大腸がん、膵臓がんについても糖尿病によって発症のリスクが上昇することが分かっていますので、こういった重大な病気をいち早く見つけるためにも、定期的な腹部エコーによる検査が大切です。 また大腸がんは腹部エコーだけでなく、便潜血検査によっても見つけることができます。
当院では原則として年に一度、定期的に腹部エコーや便潜血の検査を実施することで、合併症の早期発見に努めています。
患者さんによっては血管や臓器がエコー検査で見えにくかったり、充分な評価ができなかったりすることがあります。このような場合には、状況に応じてCT検査をご紹介します。CT検査はX線を使い身体の断面を撮影する検査ですが、特に心臓、大動脈、気管支・肺などの胸部、肝臓、腎臓などに関して、超音波による検査よりも更に詳細な画像を確認することができます。
また、当院は心臓病も専門にしているクリニックですので、心臓病の評価については心臓に特化したCT(心臓CT)を用いて、心臓の血管・構造を正確に把握して、問題点を明らかにするように努めています。また最近のCTはかなり細い血管(2mm程度)の狭窄まで分かるようになってきており、動脈硬化の程度を正確に判定して、心筋梗塞になる前に適切な治療につなげることが可能となっています。
この患者さんは心臓の血管の一部に強い狭窄があり、もう少しで血流がなくなる「心筋梗塞」となるところでした。通常は胸の痛みが出るのですが、糖尿病患者さんは痛みが感じにくくなっており、そのため発見が遅くなり手遅れになることも少なくありません。そのため糖尿病の管理には、心臓疾患の知識も必要なのです。