橋本病とはどんな病気ですか?
甲状腺は喉ぼとけの所にある小さな臓器で、人が元気に生活をしていく上で必要なホルモンを作っており、甲状腺ホルモンは「元気ホルモン」とも呼ばれています。橋本病は、その「元気ホルモン」である甲状腺ホルモンが少なくなった病気です。遺伝的な要素があり、また環境要因として出産や大きなストレス、ステロイドなどの薬を服用した後、それにヨードの過剰摂取でも低下します。
橋本病は、バセドウ病と同様に女性に多く、40才以後では人口の10%前後に達します。そのため橋本病にかかっている患者さんは非常に多くおられますが、実際に治療を要するのは、その10% 程度と思われます。
橋本病ではどんな症状があらわれますか?
甲状腺機能が低下してくると全身の代謝が低下するため、体のさまざまな機能が低下します。甲状腺機能が過剰であるバセドウ病の逆の症状となります。例えば、精神機能が低下するため、うつ症状、無気力を生じます。皮膚が乾燥し、毛がぬけやすくなりますし、むくみを生じます。心臓機能の低下により脈が遅くなり、重症例では、息切れ、ふらつき、むくみなどの心不全症状を呈する患者さんもおられます。
橋本病の初期症状
橋本病の初期症状について
橋本病(甲状腺機能低下症)とは、全身の臓器の働き・代謝などに関係する甲状腺ホルモンの分泌が低下する疾患です。 甲状腺腫大を伴う場合には、甲状腺が硬く腫れることが多くなります。
甲状腺機能が低下すると…
甲状腺機能が低下することで、以下のような多彩な症状が現れます。
全身の症状・体温
疲労感、動作緩慢、寒気、体重増加、声がれ、低体温、肩こり、筋力低下
顔・首・口腔の症状
むくみ、甲状腺の腫れ、喉の違和感、ぼうっとした顔つき、舌の肥大
神経・精神の症状
物忘れの増加、無気力、眠気、頭がぼうっとする
循環器の症状
徐脈(脈がゆっくり)、息切れ、心肥大
消化器の症状
食欲不振、便秘
皮膚の症状
皮膚の乾燥、脱毛、皮膚蒼白、汗が出にくい
血液の症状
コレステロール値の上昇、肝障害、貧血
婦人科の症状
月経不順、月経過多
橋本病に伴う病気
無痛性甲状腺炎
甲状腺で炎症が起こり、甲状腺ホルモンが血液中に漏れ、甲状腺ホルモンの量が一時的に増加し、その後1~4カ月で軽快します。
甲状腺ホルモンの量が多い時期には、バセドウ病のような症状が出現します。
橋本病の急性増悪(ぞうあく)
稀ではありますが、橋本病が急性増悪することがあります。甲状腺の腫れ、発熱などの症状が良くなったり悪くなったりと繰り返します。
また、甲状腺機能が急激に低下することもあります。 痛み止め、ステロイドホルモン薬などによる治療を行いますが、手術が必要になるケースも見られます。
悪性リンパ腫
甲状腺に慢性の炎症が起こり、甲状腺にリンパ球が浸潤し、腫瘍化した状態です。 甲状腺の悪性リンパ腫はほとんどが橋本病を原因としますが、実際に悪性リンパ腫へと移行するのは非常に稀なケースです。
診断には、超音波検査や細胞診、また悪性リンパ腫のタイプを特定するための手術などが行われます。治療では、放射線治療、抗がん剤治療、抗体療法などが行われます。抗体療法とは、リンパ腫細胞の特異的な分子を標的として行われる治療です。
橋本病に症状の顔つき??
橋本病では、甲状腺機能の低下に伴い、以下のような顔つきの変化が現れることがあります。
- 唇、瞼、顔全体の腫れぼったい感じ
- 舌の肥大
- ぼうっとした表情(実際に頭がぼうっとする症状を伴うことも)
- これらの症状が起床時に強く現れ、時間の経過とともに改善する
その他の外見上の変化
- 甲状腺の腫れ
- 体重増加
- 皮膚の乾燥
- 皮膚蒼白
- 脱毛
橋本病の診断はどのようにして行いますか?
上記のような症状から甲状腺ホルモンが少なくなっていることが疑われる場合には、以下の通りの検査を組み合わせて診断します。
また橋本病においては、肝機能障害やコレステロールや中性脂肪が増加する脂質異常症を示すことがあり、診断のきっかけになることがあります。
1甲状腺ホルモン(FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定
甲状腺機能の把握には、必須の検査となります。 橋本病ではFT4が低く、TSHは高くなります。
2甲状腺自己抗体(TPO抗体、Tg抗体)の測定
この自己抗体が陽性となることで橋本病と診断できます。
3超音波検査
甲状腺の大きさ、甲状腺内の血流など病気の状態を把握します。
また、甲状腺の内部に結節(しこり)がないかどうかを検査します。
橋本病はどのように治療しますか?
合成甲状腺ホルモンであるT4製剤を内服します。
甲状腺機能低下が回復することはありませんので、基本的には一生にわたる服用が必要になります。
服用量が過剰にならないかぎり副作用はありませんので、病状が安定した場合は、1年に1回の定期検査で十分です。
橋本病で注意することは何かありますか?
甲状腺機能が正常化したら日常生活には何の制限もありません。
他の病気のために甲状腺ホルモンの服用ができなくても数日間の休薬であれば問題はありません。
ただし、大量のヨード(昆布や海藻類)を摂取しない注意が必要です。
ヨードは甲状腺ホルモンの原料として大切なのですが、昆布などヨードを大量に含む食物を毎日摂取すると簡単に甲状腺機能は低下してしまいます。
妊娠と橋本病
橋本病は、圧倒的に女性に起こりやすい病気です(発症率は男性の20~30倍)。
またその中で、妊娠や不妊治療をきっかけに初めて発見されるケースが多くなります。
妊娠と橋本病
橋本病となり甲状腺機能が低下したまま妊娠すると、流産や早産のリスクが高くなります。 安心して妊娠・出産を迎えるためには、事前に甲状腺ホルモンを補充し、甲状腺機能を改善しておくことが大切になります。
なお、治療によって甲状腺機能を正常にコントロールすることができれば、通常と同じように産科・産婦人科での出産が可能です。
妊娠中の治療について
妊娠中は、胎児の発育にも必要となるため甲状腺ホルモンの需要が増加します。そのため、甲状腺ホルモンが正常の範囲内であっても、甲状腺ホルモン補充療法を行うことがあります。
甲状腺ホルモン補充療法ではチラーヂンSが使用されますが、この投与が赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼすことはございませんので、自己判断での内服中止は絶対にしないでください。
出産後の治療について
出産後、甲状腺ホルモンの補充量は、妊娠前の量へと戻します。通常通り授乳も行っていただけますので、ご安心ください。
ただし、橋本病によって出産後に甲状腺機能が変化するケースもあります。出産後も定期的に受診し、医師の診察・検査を受けるようにしてください。
橋本病のよくあるご質問
橋本病とは、どんな病気ですか?
全身の臓器の代謝などにおいて重要な役割を果たす甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」の代表的な疾患です。
橋本病を発症すると、どのような症状が出ますか?
発症すると、全身の代謝が低下し、疲労感、寒気、体重増加、低体温、むくみ、甲状腺の腫れ、ぼうっとした顔つき、徐脈、食欲不振、皮膚乾燥、脱毛など、さまざまな症状が現れます。
橋本病の治療法には、どのようなものがありますか?
甲状腺機能の低下が認められる場合には、チラージンSなどの内服により、減少している甲状腺ホルモンを外から補充します。
治療中の食事で気をつけることはありますか?
昆布、ひじき、海苔、めかぶ、もずく、ヨード卵、寒天などに多く含まれるヨード(ヨウ素)を摂りすぎると、症状が悪化するおそれがあるため、注意が必要です。