心筋症とは
心筋症とは、心臓の筋肉:心筋に構造的異常をきたし、心臓のポンプ機能の低下を認める疾患の総称です。原因が特定できない特発性心筋症と、高血圧などの原疾患のある特定心筋症に分類することができます。心筋症の代表的なものに、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)があります。
拡張型心筋症、
肥大型心筋症と
心不全の関係
心不全とは、体中の組織が求める血液を、心臓が十分に供給できないために、息切れやむくみ、全身の臓器不全などが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病態のことです。心臓を中心とした様々な病気の最終的に行き着く先が心不全です。心筋症も、心不全に至る病気の中の一つであり、心筋症に伴う心不全の管理、心臓突然死の予防が治療の主眼となります。
拡張型心筋症とは?
健常な心臓の外観はラグビーボールのように先端がややほっそりしていますが、拡張型心筋症の進行により徐々にサッカーボールのように膨らんでいきます。拡張型心筋症では心筋が薄く、パンパンに張って、拡張力も収縮力も低下してしまいます。20%程度が家族性とされますが、原因が不明であるため、根本的な治療は心臓移植のみですが、昨今は薬物治療の発達により、心臓移植となる症例はごく限られた場合のみです。
拡張型心筋症の症状は?
拡張型心筋症の進行は比較的緩やかであるといわれており、その変化に心臓や体が適応している範囲では目立った症状が現れないこともあります。しかし心筋症の進行により、心不全(血液を送り出すポンプ機能に異常を生じる)になると、体中が酸素不足、栄養不足に陥ります。
それに伴い、疲れやすくなったり、呼吸がし辛くなったり、足が浮腫んだり、手足が冷える…など日常生活に困るような様々な悪影響が生じるようになります。
拡張性心筋症の検査
肥大型心筋症の診断は、心筋症を併発する他の病気(高血圧,弁膜症など)を除外することで診断に至ります。そのための検査として,胸部X線,心電図,および心エコー検査,より最近では心臓MRIなどが実施されます。
心電図検査 | 狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の除外。 また、心不全に伴う不整脈の合併などをチェックします。 |
---|---|
採血 | 心不全の指標となるBNPなどをチェックし、病態管理に役立てます。 また貧血や甲状腺など心臓に影響のある他のデータを確認もします。 |
心臓エコー検査 | 心臓エコー検査では、心臓の動きや、血流が正常に流れているかをみることができます。 拡張型心筋症に特徴的な、心筋が薄くなったり、心臓の拡大、また弁膜症の合併、心室内血栓などの所見をチェックします。 |
胸部レントゲン検査 | 心臓の拡大を画像として捉えます。 また肺うっ血や胸水など、心不全に伴う所見をチェックします。 |
心臓CT/MRI検査 | 心臓CTは冠動脈の走行、血管の狭窄を評価して冠動脈疾患の除外診断に使用されます。 また心臓MRIは心臓の形態や機能を評価することができるため、近年では様々な心臓疾患の評価に利用されています。 |
心臓カテーテル検査 | 手足の付け根の血管等からカテーテルを挿入し、心臓の血管の状態を直接調べる検査です。 血管に造影剤を流し、X線撮影を行うと写真のように血流があるところは造影剤を反映して黒く映ります。 冠動脈疾患の除外や心筋生検目的に使用されます。 |
拡張型心筋症の治療方法
原因が不明であるため、基本的には心不全や不整脈などに対する治療となります。
- 心不全に対して
- 不整脈に対して
- 血栓・塞栓症に対して
1心不全症状に対しての治療
お薬や生活習慣の改善が中心となります。心臓の負担を軽くしたり、すでに現れている自覚症状の緩和を図ります。効果は患者さんごとに異なるため、定期的な検査を繰り返すことが大切です。薬による治療効果が認められない場合には、心臓再同期療法(CRT)や外科的治療が考慮されます。心不全治療においては心臓リハビリテーションが効果的です。
心不全症状
- 息切れ
- 動悸
- むくみ
- 胸痛
- 不整脈
- ふらつき
お薬
利尿薬 | 余分な水分を体から排出させることで、心臓の負担を軽くします |
---|---|
心臓を保護する薬 | 自律神経やホルモンの分泌を抑えて心臓に過度な運動をさせないようにします |
抗不整脈薬 | 不整脈が原因で生じる動悸などの不快な症状を軽くします |
抗凝固薬 | 血を固まりにくくして、心臓で血栓ができないようにします |
降圧薬 | 血圧を下げることで、心臓の負担をかるくします。 |
心臓再同期療法(CRT)
心臓はポンプの働きで血液を押し出していますが、心不全になった心臓の筋肉はこのポンプ機能が様々な要因で低下しています。心臓は球体であり、球体全体がタイミングを合わせて一斉に縮む(収縮する)ことで効率的に血液を送り出すことができますが、心不全になった心臓の筋肉はこの「タイミングを合わせて一斉に縮む」ことが出来なくなっていることがあります。
このようにバラバラに動くようになってしまった心臓の筋肉を、適切なタイミングで一斉に動ける(収縮できる)ようにする方法がCRTです。
CRTはペースメーカーと同じような形状で、本体は左右のどちらかの胸(皮下または胸の筋肉の下)に植え込まれて、本体からでたリード線は血管を介して心臓の筋肉に到達し埋め込まれます。不整脈治療で用いるペースメーカーや、後に記載するICDと違い、左右の心室両方にリードが置かれます。左右の心室に置かれたリードから同時に心臓を収縮させる電気が発せられることで、心臓全体が一斉に協調して動くようになり、心臓のポンプ機能が改善します。
補助人工心臓(VAD)
補助人工心臓 :Ventricular Assist device (VAD) は、重度の心不全状態に陥ってしまった心臓の代わりとして、血液循環を補助するポンプ機能を補う医療機器です。この装置は手術により直接心臓に取り付けられますが、術後に状態が回復すると装着している患者さんもある程度自由に動き回ることができます。補助人工心臓には血液ポンプが体外に位置する体外設置型のタイプと血液ポンプが体内に埋め込まれる植込型の2種類が存在します。それぞれの機種は患者様の状態や治療の目的によって使い分けられます。補助人工心臓を装着することで、薬物やペースメーカー治療といった従来行われる治療では治療困難な心不全の患者さんの血液循環を大幅に改善させることができます。
(国立循環器病センターHPより引用)
これら2機種の補助人工心臓はその装着様式は大きく変わりますが、循環の補助様式は基本的に同じであり、いずれも左心室から血液をポンプにより吸引し、大動脈に送血します。
適応
体外設置型補助人工心臓は、心臓移植適応かどうかに関わらず使用できますが、植込み型は原則心臓移植が承認された場合のみとなっています。
2不整脈に対しての治療
拡張型心筋症は様々な合併症を引き起こしますが、不整脈もその一つです。抗不整脈薬による治療や、突然死につながる心室頻拍や心室細動に対しては、植込み型除細動器(ICD)などの治療法が選択されます。
植込み型除細動器(ICD)
抗不整脈薬での治療に効果が認められない場合や、薬の効果を待っていられない緊急性のある場合に、植込み型除細動器(ICD)が心臓突然死予防のために適応されます。 ICDはペースメーカーと同じような形状で、本体は左右のどちらかの胸(皮下または胸の筋肉の下)に植え込まれて、本体からでたリード線は血管を介して心臓の筋肉に到達し埋め込まれます。 心臓の筋肉に埋め込まれたリード(センサー)は常に心臓の電気的興奮をモニタリングしており、危険な不整脈を感知すると本体から起こった電気ショックが心臓の筋肉に伝わり、不整脈を止めます。
CRT-D実物写真
※本体からでた3本のリード線が血管(静脈)を介して心臓まで達し、3か所に埋め込まれ、心臓の動きをサポートします。CRT本体は懐中時計程の大きさで、通常は鎖骨の下の皮下に埋め込まれます。
3血栓・塞栓症に対しての治療
また、心房細動などの不整脈合併で心内血栓形成のリスクが高まります。この血栓が脳の血管で詰まると脳梗塞を発症します。心臓で出来る血栓は比較的大きなものであり、脳梗塞の程度も重症化しやすいという特徴があります。 このような血栓予防に対しては、抗凝固薬というお薬を内服することとなります。
肥大型心筋症とは?
心臓の筋肉(心筋)が異常に肥大してしまう病気です。心筋が肥大し過ぎることで①心臓が広がりにくくなったり(拡張障害)、②左心室から大動脈への通路が狭くなるなど、全身に血液を送る血液ポンプの異常をきたすようになります。ある程度重症化するまでは無症状で過ごす治療(心不全症状に対して)方もいますが、心不全の重症化や、心臓突然死も比較的多い病気として知られています。
肥大型心筋症の症状は?
心筋症の程度にもよりますが、自覚症状が無く経過することも多いとされており、健康診断などでたまたま見つかるということもあります。
一方で症状を有する場合には、心房細動などの不整脈に伴う動悸症状、運動時の息切れや胸の不快感(圧迫感)などがあります。特に重篤な症状としては、脳への血流が不足することによる失神や、心房細動に伴う血栓が脳の血管で詰まってしまう脳梗塞、また心室頻拍や心室細動といった命に係わる不整脈が起こりえます。
肥大型心筋症の検査
肥大型心筋症の診断は、心筋症を併発する他の病気(高血圧,弁膜症など)を除外することで診断に至ります。そのための検査として,胸部X線,心電図,および心エコー検査,より最近では心臓MRIなどが実施されます。
心電図検査 | 狭心痛を伴うこともあるので、冠動脈疾患の除外や、不整脈の合併などをチェックします。 不整脈の確認には24時間ホルター心電図が有用です。 |
---|---|
採血 | 心不全の指標となるBNPなどをチェックし、病態管理に役立てます。 |
心臓エコー検査 | 心臓エコー検査では、心臓の動きや、血流が正常に流れているかをみることができます。 肥大型心筋症に特徴的な、心筋が分厚くなったり、血流異常がないか、また弁膜症の合併などの所見をチェックします。 |
胸部レントゲン検査 | 心臓の拡大を画像として捉えます。 また肺うっ血や胸水など、心不全に伴う所見をチェックします。 |
心臓CT/MRI検査 | 心臓CTは冠動脈の走行、血管の狭窄を評価して冠動脈疾患の除外診断に使用されます。 また心臓MRIは心臓の形態や機能を評価することができるため、近年では様々な心臓疾患の評価に利用されています。 |
心臓カテーテル検査 | 手足の付け根の血管等からカテーテルを挿入し、心臓の血管の状態を直接調べる検査です。 血管に造影剤を流し、X線撮影を行うと写真のように血流があるところは造影剤を反映して黒く映ります。 冠動脈疾患の除外や心筋生検目的に使用されます。 |
肥大型心筋症の治療方法
原因が不明であるため、基本的には心不全や不整脈などに対する治療となります。
- 拡張障害、左室流出路狭窄に対して
- 心不全に対して
- 不整脈に対して
- カテーテル治療
1拡張障害、左室流出路狭窄に対しての治療
肥大型心筋症の中でも、肥大による左室内腔の狭窄が存在する場合を 閉塞性肥大型心筋症と呼びます。閉塞性肥大型心筋症は肥大型心筋症全体の約25%程度とされています。最も頻度が多いのは左室流出路狭窄を示すタイプで、このタイプは特に、動作時の息切れなど心不全症状や、失神、突然死のリスクが高いとされています。
心臓が強く収縮するほど、この狭窄は強くなるため、心臓の収縮力を抑える薬(ベータ遮断薬)を使用したり、過度な運動を控えることが大切です。また、脱水や心房細動などの不整脈も、左室流出路狭窄を強める原因となるため、注意が必要です。
2心不全症状に対しての治療
お薬や生活習慣の改善が中心となります。心臓の負担を軽くしたり、すでに現れている自覚症状の緩和を図ります。効果は患者さんごとに異なるため、定期的な検査を繰り返すことが大切です。薬による治療効果が認められない場合には、外科的治療が考慮されます。心不全治療においては心臓リハビリテーションが効果的です。
心不全症状
- 息切れ
- 動悸
- むくみ
- 胸痛
- 不整脈
- ふらつき
お薬
利尿薬 | 余分な水分を体から排出させることで、心臓の負担を軽くします |
---|---|
心臓を保護する薬 | 自律神経やホルモンの分泌を抑えて心臓に過度な運動をさせないようにします |
抗不整脈薬 | 不整脈が原因で生じる動悸などの不快な症状を軽くします |
抗凝固薬 | 血を固まりにくくして、心臓で血栓ができないようにします |
降圧薬 | 血圧を下げることで、心臓の負担をかるくします。 |
3不整脈に対しての治療
肥大型心筋症は様々な合併症を引き起こしますが、不整脈もその一つです。抗不整脈薬による治療や、突然死につながる心室頻拍や心室細動に対しては、植込み型除細動器(ICD)などの治療法が選択されます。
植込み型除細動器(ICD)
抗不整脈薬での治療に効果が認められない場合や、薬の効果を待っていられない緊急性のある場合に、植込み型除細動器(ICD)が心臓突然死予防のために適応されます。 ICDはペースメーカーと同じような形状で、本体は左右のどちらかの胸(皮下または胸の筋肉の下)に植え込まれて、本体からでたリード線は血管を介して心臓の筋肉に到達し埋め込まれます。 心臓の筋肉に埋め込まれたリード(センサー)は常に心臓の電気的興奮をモニタリングしており、危険な不整脈を感知すると本体から起こった電気ショックが心臓の筋肉に伝わり、不整脈を止めます。
4カテーテル治療
心筋肥大が大動脈の近くまで広がった場合は、血液の通り道が狭められるので、血液を送り出す心臓の負担が大きくなります。また十分な血液が送りだせない場合には息切れが出たり、疲労しやすくなったり、さらに酷くなると狭心痛(冠動脈への血流不足)や失神(脳への血流不足)が生じます。
これを防ぐため、肥大した中隔の心筋の肥大を縮め、血液の流れを良くするために行う治療が、経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)です。問題の心筋を壊死(細胞を殺す)させる治療ですので、人為的に心筋梗塞を起こす手荒な治療になります。
経皮的中隔心焼灼術(PTSMA)
- 腿の付け根からカテーテルを挿入し、心臓を取り巻く冠動脈を経て、心筋肥大している心室中隔を栄養している細い血管まで到達させます。
- ここで、カテーテルの先端から、ごく微量の純エタノールを肥大した心室中隔に流し込みます。
- カテーテルを引き抜いて、止血をして終了
1
エタノールに触れた心筋は一瞬のうちに凝固壊死します。
2
壊死した心筋は活動しなくなり、肥大した心筋も次第に薄くなっていきます。
3
血液の通り道が広くなり、心臓の負担が軽減し、全身への血流も改善します。