健康診断でよく指摘される異常(心電図異常)
心臓は全身に血液を送るポンプの役目をしています。筋肉の塊でできていて中には部屋が4つに分かれており、上の部屋を心房、下の部屋を心室といいます。そしてそれが左右それぞれにあって、合計4つ(右心房、左心房、右心室、左心室)に分かれます。
この4つの部屋に弱い電気信号が流れており、心臓全体の筋肉の収縮と弛緩を繰り返します。この筋肉の収縮と弛緩は、本来規則正しく1分間に60〜100回、1日に約10万回拍動しています。
心臓に流れる電気信号は回路(刺激伝導系といいます)を伝わっていきます。電気信号を出す最初の発電所(洞結節といいます)は右心房の上の方にあります。そこから心房全体に電気が伝わると、電気信号は左右の心房と心室の間にある中継点(房室結節といいます)に全て集まります。一度中継点に集まった電気信号は続く回路(ヒス束といいます)を通って心室に伝わっていき、心室では右心室に伝わる回路(右脚)と左心室に伝わる回路(左脚)に分かれます。左心室の回路は更に左心室の前面を通る回路(左脚前枝)と後面を通る回路(左脚後枝)に分かれ、その後は末梢の回路(プルキンエ繊維)を通って心室全体に伝わっていきます。
少し細かい話をしましたが、心電図というのは簡単にいうと上記で説明した「心臓に流れている電気信号」を12個の視点から見たもので、近づいてくる信号を上向き、遠ざかるものを下向きとして記録したものです。
最初の小さい波、P波は心房の興奮(≒心房の収縮)を表します。続く大きな尖った波、QRS波は心室の興奮(≒心室の収縮)、その後の幅の広いなだらかな波(T波)は興奮が冷めていく様子です。
健康診断で心電図異常を
指摘されました。どうしたら
よいですか?
健康診断で行う心電図検査は簡単な心臓病のスクリーニング検査で、異常のある方をひっかけて、本当に治療を必要とする方をふるい分ける性質のものです。ですので心電図異常を指摘された場合は、本当に治療を必要とするのか否かを判断しなければいけませんので、循環器専門医を受診することをお勧めします。心電図異常を指摘され、実際治療を要する方は、1-2割程度です。
心電図異常の場合、どのような
病気の可能性がありますか?
息切れは下記の通り、まずは大きく、①心臓疾患、②呼吸器疾患、③その他、に大きく分けることが出来ます。その中で一番重要なことは、命に関わる心臓疾患を適切に診断・治療し、悪化しないようにすることです。
不整脈
一番多い所見は期外収縮ですが、ほとんどが異常がなく経過観察となる方が大半です。また完全右脚ブロック、完全左脚ブロック、不完全右脚ブロック、1-3度房室ブロックなどは一部治療を要することがあります。その中で大人の完全右脚ブロックは問題ありませんが、小児の不完全右脚ブロックは、生まれつきの先天性心臓疾患の可能性があるため精査が必要です。完全左脚ブロックや房室ブロックは、心臓に異常があることが多く、特に動悸や息切れ、胸部不快などの症状がある時は、かなりの確率で治療をしなければならないことが多く、要注意です。
またブルガダ症候群という突然死をきたしうる不整脈の方も稀ですがあります。
不整脈はさまざまな種類がありますが、健診での狙いは、不整脈による突然死の可能性のある患者さんを見つけ出すことにあります。
期外収縮
心臓は規則正しく拍動するのですが、それは定期的に収縮すると言い換えられます。期外収縮とは、規則正しくない拍動、つまり(定)期外収縮です。洞結節から始まる正常な電気活動による収縮でなく、異常な興奮から始まる収縮です。興奮の発する場所によって、「心房性」「心室性」に分けられます。基本的には良性の不整脈で、それ自体が命に関わるものではありません。ただ、他の心疾患や心臓以外の疾患が引き起こす事もあるので、一度は血液検査や心臓超音波検査、24時間心電図検査などで詳しく調べた方がいいでしょう。
不完全右脚ブロック
完全右脚ブロック
上記の説明のように心室では右脚と左脚に電気信号が流れます。その流れがスムーズでなく時間がかかる(不完全断線)のが不完全右脚ブロックで、右脚は断線してしまい、左脚から伝搬してくるのが完全右脚ブロックです。心臓の動きが悪くなければ問題ありません。
ST異常
T波異常
健診で見つかる場合は問題ないことが多いですが、心筋梗塞や狭心症,高血圧などで変化する心電図です。他には電解質異常などでも見られる心電図です。症状の有無や持病などでより詳しい検査が必要になることもあります。
高電位・低電位
心電図のQRS波形の高さ(振幅)が大きいものが高電位で、小さいものが停電位です。心筋の厚みが分厚かったり(心筋肥大)や、肥満などで変化が出たりします。
wpw症候群
通常であれば心房から心室への電気信号の伝導は房室結節を介してのみですが、wpw症候群では副伝導路という異常な回路が心房と心室の間にあり、通常の回路と2重の伝導となります。その早期伝導が心電図で特徴的なΔ波(デルタは)となります。副伝導路の存在だけでは大きな問題になりませんが、期外収縮(心房・心室どちら起源でも)をきっかけとして2重伝導の一つを往路にもう一つを復路としてグルグルと伝導が心室→心房→心室とループし、頻脈発作が起こります。また、房室結節は心房からの刺激があまりに早くなると自動的に抑制して心拍数は200を超えることはほとんどありません。ただ、副伝導路はそのような抑制機能がなく心房が心房頻拍や心房細動を起こすと容赦無く心室に伝えるため心拍数が250bpm程度まで上昇することがあり(仮性心室頻拍)、ふらつき・失神・ショックの原因となります。 動悸の自覚のある方は治療を考えた方が良いこともあります。
虚血性心疾患
虚血性心疾患の可能性がある場合は、所見欄に「心筋虚血、心筋障害、Q波、R波減高、下壁梗塞」などと記入されています。その中の一部に過去に心筋梗塞を起こしている患者さんが含まれることがありますので要注意です。
また過去に前胸部痛を経験したことがある患者さんや、糖尿病や糖尿病、脂質異常症を持っている患者さんや喫煙者も、虚血性心疾患のリスクが高く要注意です。
その他
「左室肥大、心肥大」と書かれることがありますが、ほとんどが高血圧による心臓の筋肉の肥大を認めているということです。どの程度肥大があるかは心臓エコー検査で確認をしますが、将来心筋梗塞などのリスクになりやすいので、高血圧の治療を行い、将来の心臓疾患の予防に努めることが重要です。
心電図異常の場合は、
どのような検査を行いますか?
まずは再度心電図を取り直します。心電図は経時的に評価をすることがとても大事なのです。以前の心電図があるようであれば理想です。以前の心電図と比較ができますので、健診での心電図異常の意味づけがより意味のあるものになります。つまり、以前の心電図と比べて変化あるようなら精査が必要ですし、変化がないようなら精査をしなくてもいいと判断ができます。
初回の心電図異常や、心電図変化があるときには、心臓の動きやサイズを確認するために心臓エコー検査は必須です。不整脈を疑う時は、24時間心電図(ホルター心電図)を実施し、長時間心臓の動きを確認する検査を行います。また不整脈の数が多かったり、バラバラの脈拍の場合は、心不全になりかかっていることもあり、その重症度をみるために、採血(BNP)を併用します。虚血性心疾患が疑われる時は、運動負荷試験、心臓CT検査で冠動脈の狭窄の程度を確認します。
どのような治療を行いますか?
不整脈 |
不整脈に対しての薬物療法を行います。 |
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虚血性心疾患 |
心臓の血管の狭さや詰まり具合によって、カテーテル治療か冠動脈バイパス術を選択します。 |
その他 |
心肥大についてはほとんどが高血圧によるものなので、食事による塩分指導や運動療法をまずは実施し、改善がないようならお薬で管理をします。 |
健康診断は受けたほうが
いいのですか?
健康診断は、健康でいる方が本当に健康であるかどうかを判断するスクリーニング検査ですので、心電図異常を指摘されても多くの方は異常ないことがほとんどです。しかし健康診断はあくまでもスクリーニング検査ですので大半は空振りでいいのです。健康診断の意義は本当に治療の必要な1-2割の方を見つけ出すのが目的です。ですので健診結果が「要精密」と書かれたら一度は必ず循環器専門医を受診して問題ないかどうかの判断を仰ぐことが大切です。
病気をしてからお金と時間を費やすことになるよりも、年1回1日だけお金と時間を使い、事前対応する方が意味があるのではないでしょうか?
不完全右脚ブロックとは?
心臓には刺激伝導系という電気回路があり、その中の右脚という部分が断線しかかった状態を指します。異常のない方がほとんどですが、中には心房中隔欠損やブルガダ症候群などの疾患が原因となっていることもあります。
少しでも不整脈が気になる方は、お気軽にご来院ください。
ネット予約をご利用いただきますと、当日スムーズに診察することができます。