肺血栓塞栓症とは?
肺動脈に血液の塊(血栓)が詰まる病気の事です。この血栓の内、9割以上は「脚」の静脈内にできます。この脚の静脈内に血栓ができる事を「深部静脈血栓症」といいます。この血栓が剥がれてしまって、血液の流れに乗り右心房、右心室を経由して肺動脈まで運ばれ、「肺血栓塞栓症」の原因となります。肺血栓塞栓症は急性心筋梗塞と比較しても死亡率が高い危険な病気です。テレビなどでよく言われる「エコノミークラス症候群」がこの肺血栓塞栓症にあたります。
近畿大学病院より引用
https://www.med.kindai.ac.jp/
急性肺血栓塞栓症=心臓の機能を急激に悪くする病気
心臓と血管で構成されている循環器系は、休むことなく酸素と栄養を血液にのせて体全体に供給する役目を担っています。循環器系に少しでも不調が生じると、たちまち生命に対し危険な状況が発生することがあります。急に命に関わる大きな発作が生じる循環器の病気として急性心筋梗塞、急性大動脈解離に次いで、急性肺血栓塞栓症が有名です。急性肺血栓塞栓症の場合、剥がれて飛んでいく血栓のサイズが大きければ大きいほど、肺機能を低下させてしまいます。またそれが突然起き、肺機能の急激な低下により突然死に至ってしまうのです。
どのような症状が現れますか?
最も多い症状は息苦しさ、呼吸困難感です。突然、休み休みでなければ動けないような息苦しさが現れます。その他には胸痛、冷や汗、失神、動悸などの症状が現れる場合があります。 また、肺塞栓症の原因となる深部静脈血栓症の兆候として、下肢の腫れ、痛み、皮膚の色の変化が肺塞栓症の約半数の患者さんにみられます。特に片側の脚にだけ症状が出ている場合は可能性が高くなります。
急性肺血栓塞栓症の症状
- 息苦しい
- 胸の痛み
- 冷や汗、失神
肺血栓の原因になる、深部静脈血栓症の症状
- 脚のむくみ
- 脚の痛み
- 脚の皮膚の色変化
肺血栓塞栓症の原因
「血液が固まりやすい」「静脈内血液の流れが悪い」「静脈が傷ついている」この3つの状態が、肺血栓塞栓症を起こしやすくします。
具体的には、乗り物での長距離移動(飛行機、新幹線、バスなど)、手術後、けがや骨折後、活動性の癌、ベッドでの寝たきり、高齢、肥満、脱水などが原因として考えられています。
脚は、第二の心臓とも言われ、歩行によって脚の筋肉が静脈をマッサージし、血液を押し上げる補助ポンプの役割を果たしています。しかし、上記のような長時間安静の状態が続くと、補助ポンプの機能を使えずに血流は遅くなります。血流が遅くなると血栓ができやすくなるためリスクは高くなります。
震災の避難所で多発した肺塞栓症/深部静脈血栓症
近年では災害に伴う避難所生活が肺塞栓の要因となることが知られるようになりました。
2011年に発生した東日本大震災において、石巻市と東松島市の避難所で、超音波検査による深部静脈血栓症の検診を行った報告があります。
延べ22か所の避難所において543名に超音波検査を実施したところ、なんと165名(30.4%)の足の静脈に血栓が認められたとのことです。
石巻市のある病院では前年に比べて約3倍もの急性肺血栓塞栓症の患者さんが搬送されてきたそうです。避難所での生活は、「持病がある」「高齢」「動かない」「脱水」など、肺塞栓症をきたしやすい要素が複数重なったものと思われます。
下肢静脈瘤も肺塞栓症の原因になるのですか?
これはよく頂く質問です。「下肢静脈瘤」も「深部静脈血栓症」も足の静脈に起こる疾患ですが、全く異なる病気です。
「下肢静脈瘤」は放っておいても命にかかわることはありませんが、「深部静脈血栓症」は放っておいた場合、命にかかわることが起こり得るので、“治療をしないといけない“病気です。
「下肢静脈瘤」にも血栓ができることはあります(血栓性静脈炎)が、肺塞栓症にはなりません。そのため重症度は高くありません。
ただ血栓性静脈炎の場合は足の痛みや腫れがひどくなるため、「下肢静脈瘤」でもこの場合は治療をする必要性があります。
どのような検査を行いますか?
下肢血管エコー検査/心臓エコー検査
下肢血管エコー検査で、下肢の静脈の形状、及び血流をみて血栓の有無を調べます。そして大きさなどを評価し、「深部静脈血栓症」の有無を確認します。 同時に、心臓エコー検査も実施し、心臓の大きさを確認します。血栓が肺に飛んでしまった場合、心臓に負担が生じるために、それをエコー検査で確認することができます。
採血(Dダイマー)
Dダイマーは、数値が高値の場合、最近の血栓の存在を示唆します。血栓ができやすい体質の患者さんもおられるため、その場合は特殊な採血検査を追加することもあります。
心CT血管造影検査
急性の肺血栓塞栓症の診断に望ましい検査です。血管内に造影剤を投与し、肺の血管内に血栓によるつまりが無いかをみます。
どのように治療していきますか?
治療法は重症度、合併症、深部静脈血栓の有無などから、以下のいずれかの治療法が選ばれます。
1血液をサラサラにする治療(抗凝固療法) ⇒ これ以上血栓をつくらせない
出血性の合併症などが無い限り、血をサラサラにする抗凝固療法を行います。血栓の大きさによっては点滴で治療をすることもありますが、安定したらお薬になります。
2血栓を溶かす治療(血栓溶解療法) ⇒ 出来た血栓を溶かす
ショック状態(末梢の血液循環不全による血圧低下、意識の混濁など)に陥っている場合に適応となります。
理屈では非常に有効な治療法ですが、デメリットも多い治療法です。
この血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)には、出血を起こしやすくする作用があります。また深部静脈血栓が残っている場合には、それがはがれて流れていき、肺塞栓症を悪化させてしまう可能性もあります。
その他、採血をした部位や手術の傷口から出血が起こったり、重い合併症では消化管出血、頭蓋内出血が起こります。特に頭蓋内出血では後遺症が生じることや、時には致命的となることもあります。
これらを踏まえ、慎重に検討したうえで治療を行います。
3カテーテル治療⇒ 出来た血栓を取り出す
肺動脈内にできた血栓の近くまでカテーテルを進め、血管を再開通させる方法です。具体的にはカテーテル血栓溶解法、血栓吸引術、破砕術があります。
カテーテル血栓溶解法は、圧力をかけて直接薬剤をスプレーする為、点滴と比べて治療効果を向上させるのではないかと期待されています。
カテーテル血栓吸引術と破砕術は、文字通り肺動脈内の血栓を吸い取ったり、粉々に砕く方法です。血栓と取り除くことが出来るため、状態は劇的に改善します。
4外科治療(血栓摘除術) ⇒ 出来た血栓を取り出す
血管内の血栓を外科手術で取り除きます。血栓が取り除かれれば状態は劇的に改善します。重症であり血栓溶解薬が使えず、カテーテル治療ができない場合、外科治療は最優先されます。
5下大静脈フィルター
下大静脈フィルターは、ここまでの治療法とは異なり、脚の静脈にできた血栓がはがれて流れてきたときに、フィルターで血栓を捉え、肺塞栓症を起こさせないよう予防する方法です。 フィルターには、生涯体に入れたままの永久留置型と、留置後に取り出すことのできる非永久留置型があり、病状に合わせて使い分けられます。 しかし近年、永久留置型は長期的にみると、深部静脈をかえって増やしてしまうことが分かってきました。そのため、出来る限り非永久留置型を用いることが日本では多くなってきています。
深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症を予防するには?
肺血栓塞栓症及び深部静脈血栓症は、誰にでも起こり得る病気です。ですが、日常生活での少しの心がけでリスクを減らすことができます。また、すでに治療をした方も再発のリスクがあるため、継続した予防が必要となります。予防の具体的な方法は以下の通りです。
適度な運動
入院中であれば出来る限りの早期離床や寝たままで出来る足首、足の指の運動→下肢血流の滞りを防ぎます。
適度な水分補給
血液濃度を下げることで、血栓をできにくくします。 ※カフェインの入ったコーヒーや紅茶の飲み過ぎは、カフェインの尿量を増やす作用によって飲んだ量以上に尿が出ることがあるので注意してください。