睡眠時無呼吸症候群とは?
睡眠時無呼吸症候群とは、文字通り寝ている間に何回も呼吸が止まる病気です。
英語では Sleep Apnea Syndrome といって、頭文字をとって SAS(サスと読みます)と呼ばれています。
睡眠中、平均して1時間に5回以上、それぞれ10秒以上呼吸が止まる場合は、この症候群の可能性があります。
睡眠中の呼吸の停止により、脳の酸素不足が生じます。
酸素不足を解消するために、心拍数を上げてなんとか酸素を送り届けようとするので、
睡眠中にも関わらず、脳や心臓が常に覚醒した状態で全く休めません。
その結果、日中の強い眠気や倦怠感、集中力の低下が生じる病気です。
また、単に日中に眠気が現れるだけではなく、心臓や血管系の病気を起こしやすくしたり、居眠り運転による事故原因としても重要です。

睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患
この病気は日本でも2003年の山陽新幹線の運転士の居眠りでにわかに注目され、「居眠り運転につながる病気」というのは広く知られているかと思います。
それに加えて、睡眠時無呼吸症候群は高血圧症、脳卒中、狭心症、心筋梗塞など循環器病と密接な関係があることも、我々循環器専門医としては重要視している点です。循環器病の発症要因になったり、病態の管理を難しくさせる要因になるからです。
睡眠時無呼吸症候群 (SAS) 患者は循環器病を合併しやすい
SAS患者の合併リスク(健常者と比べて)
高血圧症 | 約2倍 |
---|---|
狭心症・心筋梗塞 | 2~3倍 |
慢性心不全 | 約2倍 |
不整脈 | 2~4倍 |
脳卒中 | 約4倍 |
糖尿病 | 2~3倍 |
無呼吸と血中酸素
無呼吸によって血液中の酸素濃度が下がる:低酸素血症が生じたときの血液中の酸素濃度を「動脈血酸素飽和度」(SpO2)という指標で表すと、正常では96%以上なのに無呼吸時には簡単に90%以下に低下します。人が起きている時に90%以下になるためには3~5分程度呼吸を止めないといけません。それくらい苦しいはずなのですが、寝ているために苦しさを感じない・・・ただ「心臓はしんどい!」ので心拍数を上げて呼応しているのです。SASの患者さんが心臓発作が多いのは、ある意味当然の結果というのがわかるかと思います。

睡眠時無呼吸症候群の原因は?
睡眠時無呼吸症候群には、大きく分けて二つの種類があります。

閉塞性睡眠時無呼吸
一つ目は、空気の通り道である上気道が物理的に狭くなり生じる閉塞性睡眠時無呼吸です。睡眠時無呼吸症候群の約9割の方がこの閉塞性睡眠時無呼吸に該当します。上気道が狭くなる要因は、首、喉周りの脂肪蓄積や扁桃肥大、その他、舌の付け根が喉を塞いでしまうことなどが挙げられます。脂肪蓄積は、簡単に言うと肥満のために頚の周りに脂肪がつきすぎて、気道を塞いでしまうのです。

閉塞性睡眠時無呼吸の原因は?

喉周囲の病気
アデノイド肥大や扁桃肥大、鼻中隔湾曲症などによる鼻閉など。
肥満
喉の周りの過度な脂肪蓄積は、睡眠時(特に仰向け)に喉を圧迫します。
顎の形、骨格
顎が小さい、特に下顎が小さい方は気道が狭くなりやすい傾向にあります。顎の小さい方、首が短い方では、肥満がなくても気道閉塞を生じる可能性があります。
鼻炎
アレルギー性鼻炎など慢性鼻炎は組織の浮腫みが生じる為、気道閉塞を生じる可能性があります。また鼻中隔湾曲症などによる鼻閉も原因となります。
飲酒
就寝前のアルコール摂取は、アルコール刺激による気道粘膜の浮腫みを生じさせ、気道を狭くさせることで無呼吸につながる可能性があります。
中枢性睡眠時無呼吸
呼吸中枢の障害によって起こるタイプです。
呼吸中枢からの命令が消失するため、胸郭と腹壁の動きがなくなります。中枢型無呼吸は、呼吸の自動調節系そのものの障害によると考えられています。さまざまな器質的異常や慢性心不全などの心血管疾患によって呼吸中枢から呼吸筋への命令が消失することによって起こります。

慢性心不全に認められる無呼吸:チェーンストークス型無呼吸
上記のように、いくつかのタイプに分けられますが、心不全の患者さんに認められる無呼吸は、「チェーンストークス型無呼吸」とよばれる特徴的な中枢型無呼吸です。閉塞型にくらべ、いびき、昼間の眠気などの自覚症状が少ないことも特徴です。病気のメカニズムは不明なことも多いのですが、心不全により、呼吸中枢への血流の低下、二酸化炭素への過剰反応にともなう頻呼吸などが原因とされています。慢性心不全の30-40%の方に見られるとされていて、この異常呼吸のある場合はない場合にくらべて、一見心臓の機能が同じようでも予後が悪いとされています。
どのように検査しますか?
睡眠中に機器を装着し、「10秒以上続く無呼吸」または「血中酸素の欠乏を伴う低呼吸」が1時間に5回以上起こると睡眠時無呼吸症候群と判断されます。1時間あたりの回数を無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea Hypopnea Index)といい、重症度を決める際に使用します。

簡易検査
ご自宅で、いくつかのセンサーを患者さんご自身で取り付けていただき、一晩おやすみいただく検査です。翌日に機械を郵送いただき、呼吸、心拍数などの解析を行います。きわめて安全な検査ですが、脳波を計測していないので、あくまでスクリーニングとして活用されています。重症度が高い場合(1時間に40回以上無呼吸を認める場合)は、すぐに治療介入(CPAP治療)となりますが、更なる精密検査が必要な場合はポリソムノグラフィーで評価を行います。
精密検査(ポリソムノグラフィー検査:PSG検査)
専用の部屋に1泊2日、入院(地域によっては自宅でも可能)をし、二十数か所にセンサーを取り付け、睡眠中の脳波、呼吸、心電図などを一晩モニターします。痛みを伴うモニターはありませんので極めて安全な検査で、ほとんどの方がお休みになれます。睡眠中の呼吸の状態、脳波などを解析し、無呼吸の有無、重症度を判定します。睡眠時無呼吸症候群の診断は、一般に10秒間の呼吸停止、あるいは呼吸の低下を「無呼吸、低呼吸」と定義し、これが1時間に何回認められたかによって重症度を判定しています。(無呼吸低呼吸指数:AHIといいます。)AHI≧5の場合に、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。5≦AHI<15を軽症、 15≦AHI<30を中等症、AHI≧30を重症と定義しています。日本の保険では、AHIが20回以上の場合はCPAP治療の適応となります。
どのように治療しますか?
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療法にはさまざまな方法があります。口腔内装置による治療、手術による治療、そしてCPAP(シーパップ)療法(持続陽圧呼吸療法)です。病状・状況により治療方法は異なります。また、肥満の解消や、寝酒習慣など生活習慣の改善も合わせて行う必要があります。

CPAP
CPAP(シーパップ)療法(持続陽圧呼吸療法)はCPAP装置からホース、マスクを介して処方された空気を気道に送り、常に圧力をかけて気道が塞がらないようにします。この療法を適切に行うことで睡眠中の無呼吸やいびきが減少し、睡眠時無呼吸による症状の改善が期待されます。CPAPは治療効果が高い治療法です。 ただ睡眠中にマスクを顔に当て、空気を送られるため、人によっては圧迫感を強く感じる方もおられますので、あくまで無呼吸症候群を起こしている原因疾患を取り除くまでの、「対症療法としての治療」という位置づけになります。
マウスピース
マウスピースによって睡眠時に舌が喉に落ちるのを予防する効果が期待されます。マウスピース作成は歯科にて行うことが多いです。
外科手術
気道閉塞の原因がアデノイド肥大や扁桃肥大などの場合には、手術によって取り除くことがあります。また、鼻閉を起こす鼻疾患は、CPAPや口腔内装置の治療を妨げるため手術が必要となることがあります。
予防は出来ますか?
様々な原因が考えられる睡眠時無呼吸症候群ですが、原因の多くは生活習慣の乱れです。特に肥満の割合は大きく、適正体重を保つことが予防につながります。
また、アルコールを摂取することによって筋肉が弛緩し、日ごろいびきが生じない方でも無呼吸を生じることがります。睡眠前に飲酒の習慣のある方は、生活習慣を見直しましょう。
その他、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻症状がある場合、睡眠時に口呼吸となり、鼻呼吸時よりも咽頭が狭くなり、無呼吸を生じることがあります。鼻症状のある方は、耳鼻咽喉科にて治療を行うことをお勧めします。
また、睡眠時の姿勢によって無呼吸を予防できる場合もあります。
普段仰向けで寝ている方は、横向きで寝ることによって上気道の閉塞を軽減できる場合がありますので、試してみましょう。
高血圧の方
高血圧の方の中で、お薬を飲んでも血圧が下がらない方がおられます。その約80%の方が睡眠時無呼吸症候群という報告もあります。また、お薬の効果で昼間の血圧が正常になっている場合でも、早朝や夜間の血圧が睡眠時無呼吸症候群が原因で上昇している場合もあります。
早朝や夜間に血圧の高い方は、心血管疾患、脳卒中のリスクが高くなるとされています。高血圧でお薬の効果が出にくい、いびきをかいているかもしれない、と思う方は、一度循環器専門医に相談してみてください。